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【雑誌くるとんからPick up!】くるとんVol.52

魚町にあるおいしい夫婦の店/魚新

岩国市 魚新 魚谷さん

白馬の王子さま

惣菜売場の店先で夫婦の写真を撮りましょうと呼びかけると、ニコニコして応じる夫に、「えーっ!?」と嫌な顔をして見せる妻。さて、撮れた写真はというと…、会心の笑顔の仲良し夫婦だ。どっちが先に好きになったのかと、40年も前の馴れ初めを尋ねてみたら、「家内がわしを好きになったんじゃ、ハハハ」と夫は高笑いする。それをみて、「そういうことにしとこう。あの時は、白馬に乗った王子さまじゃったからね」と妻。
夫は魚谷新吾さん(66)、妻は由美子さん(66)。魚谷家の先祖は江戸時代の安政年間から魚屋を営み、明治からは仕出し屋として代を重ね、新吾さんはその6代目である。
仕出し屋の御曹司が白馬に乗って由美子さんのところに現れた。そんな映像を思い浮かべていたら、それはちょっと違っていた。
新吾さんは東京の大学で法律を学び、名古屋市近郊の長島温泉を運営するリゾート会社に就職していた。店主の一人息子といっても、そもそも仕出し屋は魚谷一族総出でやり繰りしてきた。兄弟同然で育った従兄弟のなかに跡継候補もいたとか。
「この人は、手先が不器用だし、ずっとこのままサラリーマン」。早く結婚したいと思っていた由美子さんにとって、新吾さんとの縁談話は渡りに船。まさか仕出し屋の跡を継ぐことになるとは…。
子宝にも恵まれ、結婚生活も4年が経ったとき、「岩国に帰るぞ!」となった。

出口がない

新吾さんと由美子さんが魚新を手伝い始めた昭和56年(1981)頃、店はてんてこ舞いの忙しさだった。従業員を含めて16人ほどの体制で、結婚式場へ料理を提供する。土日になると、日に4組、5組の料理を用意するために、徹夜もざらだった。
新吾さんは毎朝、魚市場への仕入れに同行して、魚の目利きを学び、料理の技術は目で見て覚えた。もともと、学生の頃から料理の手伝いをさせられていた新吾さん。「料理は嫌いじゃあなかった」。
一方で、これは偶然なのか、はたまた親の企みだったか、由美子さんは結婚前、料理学校の先生をしていた。学校の料理と現場の料理ではずいぶんと勝手は違ったが、昔取った杵柄は大いに役立った。
二人の子供たちを近くの由美子さんの実家に預けて、夫婦はがむしゃらに働いた。やがて結婚式への仕出しの仕事が減ると、麻里布町に惣菜の店を出した。
そうこうするうちに時代の流れか、結婚式の仕事は、まるまる葬儀の仕事へと切り替わった。
「結婚式は土日が大変じゃったが、他の日はそうでもなかった。でも、葬儀はいつあるかわからんからね」と新吾さん。でも、ちょっと手が空くと、ふらっとパチンコに出掛けて気分を変えていたとか。その一方で、由美子さんはというと、「出口のないトンネル」のなかにいた。
「やっぱり、周りの人の目があるし、気を遣うから…」。商売の家に入った嫁の気苦労は相当なものだろう。由美子さんはそれを「出口のないトンネル」と表現する。

秘密の味

江戸時代、魚町の魚屋は10軒くらい並んでいたようだが、その流れを汲む店は現在、魚新ただ一軒。法事や葬儀の仕出し、店では弁当・惣菜を売る。
長い付き合いのパートさんたちとともに、相変わらず忙しいという。創業から160年を超えてもなお存続するには、何か秘訣があるはずだ。
秘訣の一つは時流に合わせて商売も変化したこと。魚屋から仕出し屋に変わり、結婚式が葬儀や法事に代わった。しかし、それだけではない。
「この『からし蓮根』はね、遠くからわざわざ買いに来てくれるよ。弁当にも、絶対にこれを入れてくれって、言われるけぇね」と新吾さん。
辛子れんこんは熊本が有名だが、九州の人が関西への手土産にと、わざわざ高速道路を降りて、店に寄って買って行くという。
作り方を人に教えたこともあるというが、不思議に同じものはできなかったらしい。
もう一つ、沢山のお客がシーズンを待ち望んでいるのは、鰻である。
何が違うかというと、タレ。「長年の継ぎ足しですか」とよく聞かれるそうだが、そうではない。なんと鰻が嫌いな人でも、「ご飯にかけたら何杯でも食べれる」と、タレだけを買っていくとか。しかしこれの作り方については門外不出である。
「なあに、大した秘密じゃあありませんがね」とニヤリ。
どんなに時流に合わせて業務内容が変わろうとも、長い歳月を生き延びる店には、しっかりした大黒柱があるもの。辛子れんこんも、鰻のタレも、そして「なんでも手作りじゃからね」という徹底したこだわりが、長く続くもう一つの秘訣である。

岩国市 魚新 からし蓮根

トンネルのその先へ

本人曰く「間違った結婚」という由美子さんだが、実に楽しそうに結婚アルバムを披露してくれた。最近は、夫と一緒に、あるいは気心知れたパートさんと「美味しいものを食べて帰ってくるだけ」という一泊旅行を楽しむ。どうやら「出口のないトンネル」を、知らぬ間に抜け出ていたようだ。
店頭には今日もいろいろな惣菜が並ぶ。近所のお年寄りは、ここの日替わり弁当を楽しみにしている。
「近所の人にも当てにされているからね」と夫婦。同い年の仲良し夫婦が切り盛りする仕出し屋は、これからも歳月を重ねようとしている。

岩国市 魚新 ピーマンの葉 惣菜 岩国市 魚新 鮎 惣菜

案内マップ
岩国市岩国1-16-1
営業/惣菜は9:00~18:00
休/不定休(惣菜は日・祝日)
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